詩集

2012-02-27(月)

痛み

髄の奥が痛む
知らなかった
こういうふうに
人は
さいなまれていくのだ

硬膜のわずかな隙にある帯
覗いてみて
触り
そして知る

そこにたゆたっていた
長い間
はるか以前から
どうしたって他の場所にはいられないという
顔をして

もうやめたっていい
ふと
よぎるものがある

それを追いかけて
しかし
どこへ

葡萄色の日に鍛えられた
かなぐり捨てて
叫ぶ
そこにあるものからそこにないものへの甘さ

2011-03-07(月)

いつもならば

いつもと同じような
誰かに待たれている感覚
身をひたしていると
音がする

ぽたりだったか
ぽとぽとだったか
懐かしいです
(悠久なんていう表現は)

むしろ死臭すらした
とうに向こう側へいってしまったのだったか
それは笑みに隠れてもいただろうが
しかし
いい音がした

ああ、ここにいるんだと思いました
ここにいればそれでいいんだとも思いました
まあるい静かな、熱気球が
遠くへ去っていく
それを突き破るだけの心がけをそれでも持てというのですか、あなたは

いつも
忘れないで
あれが全てなのだということを
十全な時を預けたのだということを

心に残る
ことば

2009-10-04(日)

そうして

そうしてぼくたちは
いつも
同じ表情をして歩いている
急に死をはやめようとしても
それは…

だからといって
波立つ心を
人々にうちあけようともしない

ただそこに以前から
あったかのような顔つきをして
すっくと
立っているだけなのだ

だけれど
時に
なぜ自分の肉体から涙が消え果てたのかを
真剣に
考えこんだりもする

そうしてせせらぎの音にも似た
季節の変化を
感じ
また
静かに
歩き始める

石畳の
街を
城壁のつきる際めざして

2009-05-25(月)

われもこう

我未だ赤し

叫ぶ少年の
胸に
刻印が
押され

果ては海の藻屑
地底深く
沈み
誰にも看取られず
憂いを
重ね
いつか
主義者達の
餌食と
なり

(それもまた幸せな末路だが)

海草のたゆたう
燎原に
機敏な足取りの男達が
たむろする

親しげなまなざしは誰のためのものか
合意は逡巡の奥にあったのか

秋だった
野分の風が
冷たく
なんとも陰惨に
吹いていた

もう休め
宿り木にとまれば
それもひとときの平安
誰も咎めはしない

猛っているのは
既に
鳴くことをやめた
ふくろう

2009-05-09(土)

待つ

待ちたいと思う
まさか
今からか
そうだ、今からだ
恋い焦がれて待ちたい
その日が来るのを
わずかな隙間から目だけぎらつかせて

そうすれば
必ず
やってくるという
約束
あるいは契約

今までと違うまあるい断片のかけらを拾い集め
そうして
あたりまえのように
胸をはって
広場の門を
出ていく

尖塔に人の姿はあったか
たしか
赤い服を斜めに引き裂いて
旗が
翻っていた

夕陽を浴びてきれいだったよ
父さんにもみせたかった

2009-04-07(火)

桜花

少女にできるような技ではない
乱すのだ
そしてかきまわし、衆目の前へ引きずり出す
性悪な
おんなたちの
手練手管に
似てはいないか

ああ、こんな風にからかうのはよくないよ
指の先に
紅を
つけて
こちらの店へと
流し目をする

乱れるのだ
こころが
おまえの
その
散華のいさぎよさに
匂いに

いつまでも
ここにいておくれ
そばにいておくれ

鳥のはばたきが
いくら心地よいとはいえ
飛び立つように
朝靄の中へ
消えずに
いつまでも
ここで
その息をしずめているがいいさ

その方が必ず
いいに決まっている

2008-07-28(月)

いとなみ

不思議だ

こんな気分になったことは今までにない
水の中をくぐっていくような
不安

空の高みにのぼり
それでいて
いつも地上を夢想している

峻烈な
熱波を浴びたからか
数百年の
手記を
閉じたからか

窓から差し込む日ざしがあたたかく
この
あえかな
空間を
支えている

それは力をみなぎらせ
奔流となって
海に注ぐというのでもない

もう十分に
密やかないとなみを終え
それでいて
微笑み続けたいと
常に
意志するものの
渇きにも似て

2008-04-06(日)

野辺

軽く弾めば
そのままで、空へ飛べるというのに
なぜ
その表情を
いつまでも続けるのか

つまらないことだよ
薄桃色の
はなびら一枚が
この星を覆うとしても
それはそれで
すばらしいのに

なにも複雑な神経系を患う必要はない
それよりも

コップ一杯の水を
所望する

その分子のなかにこそ
あらゆる星の
すべてが
内包されているのだ

つまり
形が
定まりつつあるものとして
機能し続けている
という
表象

もっと微笑まなくては

若さは
畢竟、無力の中に宿っているのだし
それ以外の
場所には
存在しない

緑の野辺をみたまえ
ひばりの
声に
今も
謙虚であればよし

2008-02-27(水)

その木に
のぼりつめるまで狂う
枝は
ここにしかない
八方に伸びた女の足に似て
それは
私をつねにいざなう

待つことだ
いつだって待ち続けるしかない
やってくることもある
来ないことだってある
だからといって
祈る必要はない

やがては全てが願ったままの形をとり
ごくありふれた
それでいて唯一の
放恣を
手に入れることになる

雨が降り、濡れてしずくが垂れ

そういう場所があってもいい

泣いて接吻を繰り返す
誰のために

わからない

いつも気圧された勇者が
挑んだ
十秒でどこまで行けるか

もう形をかえよう
諦めた
今は
静かに空を眺めつつ

2008-01-03(木)

意志

去年の夏は予想以上に暑かった
しかしそんなことは全く問題ではない
実は
それ以上に
たくさんの人が生まれて死んだ
水害も塩害も
そして山からの大風も吹いた

いつものようにあらゆるものをなぎ倒した
海が近くなり
家を
波打ち際から遠くへ運ばなければならなかった
だがそれがなにになろう

多くのことがらは誠に平凡に
そして静かに進んだ
花びらが落ちて悲しむだけのゆとりさえ持てなかった
いつものように泣き女を頼むだけの
いとまさえ与えられず

そのことを
悔やむ
なによりも悔やむ

また春がきて、いまは素直にうれしいだけだ
感謝をしなくては
ひとに蝶の飛ぶ野辺をくださった
大胆な
意志のあらわれを前にして

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