テレビの黄金時代 小林信彦 文藝春秋 2002年11月

月刊「文藝春秋」に連載していた時から、楽しみに読んでいました。今度まとまった形で読みなおし、今さらのように草創期のテレビはすごかったという印象を強くしたものです。
一言でいえば、この時期のテレビにはたくさんの強者がいました。日本テレビの井原高忠は今や伝説の人です。彼がいなかったら、ほとんどのショー番組はできなかったことでしょう。
ナベプロ、マナセプロとの確執などが後の「スター誕生」に発展し、ホリプロなどの力を生み出しました。
また前田武彦、青島幸男、永六輔、大橋巨泉などをからめた複雑な人間模様は読者を飽きさせません。前田と大橋の仲の悪さから、後の「ゲバゲバ90分」が生まれたこと。巨泉は無名の頃から業界内で評判の悪かったこと。しかしあるディレクターが11PMでブレイクさせた話。一時は小林のところに司会の話がもちこまれたこともありました。
さらに坂本九を批判していた永六輔は井原とうまくいっていなかったことなどが綴られています。当時人気下降中だった坂本九を劇場公開型番組の主役として生き延びさせた番組「九ちゃん」の放送裏話も面白いものです。
文中には井上ひさし、津瀬宏、河野洋など、次々と懐かしい構成作家の名前が出てきます。
クレイジーキャッツの衰退にあわせて、ドリフターズが生まれた話。さらにコント55号の萩本欽一がふらりと一人で筆者の家を訪ねた時の暗い様子など、テレビ局と人との関係が、非常に濃厚だった時代の風景が展開されます。
小林自身、殆どの番組構成に関わり、やがてその世界を抜けていっただけに、冷静な視点で当時のテレビの裏側を描写しています。
テレビが衰退に向かうのは1970年前半からだったと彼はいいます。
というより、草創期には想像もできなかった力を持つ巨大な怪物に変形したのです。今ではリモコンのスイッチを切る以外に怪物の支配を免れる方法はないと断言しています。
たくさんのタレントの名前が出てきます。しかしその誰をも実によく観察していることに驚かされます。
彼の名著『日本の喜劇人』(中原弓彦)とあわせて読んでもらいたい本です。
テレビの持っていた熱が強く伝わってきます。それは現在の姿からは全く想像できないものといっていいでしょう。

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