みかづき 森絵都 集英社 2016年10月

長編です。小説すばるに足かけ3年連載したものをまとめたものです。
文学的な香気というものからはやや遠いものの、多くの読者を得られるだろうと思います。
それは内容がまさに現代の教育の実情をえぐっているからです。
塾というものの草創期から今日までの様子が伏線です。
ストーリーの根幹をなすのは大島一族のそれぞれの物語。
家族というものがどのような内実を含んでいるのかということが中心です。
そこがぶれていないので、最後まで一気に読めます。

面白かったです。
塾関係者によく取材してあります。
それだけでも大変だったと思います。
教育という言葉はよく使われるものの、その中身は人によって違います。
誰もが学歴を得れば一つ上の階級にのし上がれた時代の物語といえるかもしれません。

大きな目的もなく始めた復習塾がいつの間にか受験のための塾へ。自社ビル。大型化…。
理想の教育と現実の間で夫婦の考え方に齟齬がうまれます。
それでも時は容赦なく、文部省は塾を敵視したかと思うと、次には利用しようとする。
その狭間で現場は揺れます。

最終章に近くなって、孫の世代が貧困家庭の子供の学習を支えるNPOを立ち上げます。
これもまさに時代です。
ストーリーはめまぐるしく変化していきます。

その間に大島ファミリーの娘、孫たちにも劇的な変化が…。
詳しいあらすじをいくら書いても仕方がありません。
子供たちは学びたがり、新しい知識に目を輝かせます。
しかし大人たちはゆとりを与えてみたり、カリキュラムを複雑にしてみたり…。
いつも理不尽で厄介な思惑にとらわれてばかりです。
塾相互のバトルも予想以上に醜い。
しかしどんな時にも深い理解を示す人もいる。
それがこの物語の救いです。

太陽にはなれなくても、月にはなろう。
そう願って始めた小さな勉強塾から物語は、次々と展開していきます。
ずっと読み継がれる本になりうるのかどうか。
格差社会が教育の機会均等を崩しています。
この本の生命はこれからの教育の方向とまさにリンクしているような気がします。

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