桜田門外ノ変 吉村昭 新潮社 2010年2月

偶然の機会に恵まれて読了することができました。
『大黒屋光太夫』に続いて、職場の女性に貸していただきました。
吉村昭の小説はかつて『海も暮れきる』と『破獄』を読んだだけです。
そういう意味で、大変に貴重な時間でした。

視点はただ一つ。
水戸の下級藩士の家に生まれた関鉄之介の目を通して描かれた井伊暗殺の全貌です。
水戸学といえば、尊皇攘夷。
太平洋に面した広い海岸線を持っている土地ならではの危機感だったのではないでしょうか。

時代は黒船来航により、大きく転換していきます。
ここまで水戸藩に厳しくあたった幕府というのも驚きです。
それだけ諸外国の開国に対する姿勢が強硬だったということの証しなのです。

ついに安政7年3月3日。
桜田門外で井伊大老は暗殺されます。
ここに至る道のりには実に長い忍従の日々がありました。
最後は薩摩が京都に攻め上り、朝廷を守るという密約もありました。

しかし大老を倒してからの日々がいかにつらいものだったか。
ここまで過酷であったとは知りませんでした。
あとはひたすら追われるだけ。
井伊の属していた彦根藩はもとより、幕府、さらには水戸藩にまで追われます。

その間に獄死するもの、自刃するもの。
自分を信じて守ってくれた女さえも、石抱きの刑に処せられ死んでいきます。
関鉄之介は実によく逃げました。
しかし追っ手はじりじりと迫ってきます。

あの暗殺はこの国に何をもたらしたのか。
自問しつつ、やがて捕らえられます。

前半も面白いけれど、暗殺後の逃避行が読ませます。
実に詳しくその様子が描かれています。
これだけの作品を書くというのは、並々の筆力ではありません。
『大黒屋光太夫』とあわせて、小説の持つ醍醐味に酔った日々でした。

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