庭の桜、隣の犬 角田光代 講談社 2007年9月

庭の桜、隣の犬 角田光代 講談社 2007年9月

最近、あまりこの欄に本のことを書かなくなりました。読んでいない訳ではないのです。つい日記の方ですませてしまう傾向が強くなりました。反省しています。 久しぶりに角田光代の小説を読みました。 群像に1年間連載したもののようです。 内容はまさに家族と夫婦。 主人公はテーゼがないと呟きながら、自分の芯がないことに気づきつつ、暮らしています。 どうにもならないシチュエーションが延々と続きます。舞台は多摩プラ...

仮面の告白 三島由紀夫 新潮社 2003年6月

仮面の告白 三島由紀夫 新潮社 2003年6月

何度目でしょうか。その時々に読んできました。 先日、新しく勤める学校の図書館に初めて立ち寄りました。ふと手にとってみる気になったのです。 この作家のものは、どれも特異です。今のような時代にも読者はいるのでしょうか。華美な装飾がこれでもかとついていて、その金モールを全て取り外し、素顔まで覗きにいくのはなかなか至難です。 しかしそこにみえる自我の量は圧倒的です。それ故に興味深いということになるのでしょ...

つまをめとらば 青山文平 文藝春秋 2016年1月

つまをめとらば 青山文平 文藝春秋 2016年1月

今期の直木賞受賞作です。昨今あまり時代小説を読まなくなりました。というより、小説そのものから遠ざかっている気がします。自分の周囲の出来事の方が、よほど小説よりも小説的だからかもしれません。 それと同時に落語の題材を探したいという目もあります。「文七元結」のようなテーマが、そうあちこちに落ちているとも思えませんけれど、あればあったで、実に愉快です。 さてこの短編集にはさまざまな味わいがあります。キー...

ロゴスの市 乙川優三郎  徳間書店 2015年12月

ロゴスの市 乙川優三郎  徳間書店 2015年12月

主人公は同時通訳の女性と小説の翻訳家の二人です。 それに絡むのが、後に修道女になる人と大手出版社に勤める大学の同級生4人です。 さらに海外の小説を得意とする出版社の中堅社員。 それぞれの生き様を通して、言葉と真剣に対峙する主人公二人の愛の行方が描かれます。 大学は明らかにICUをイメージしています。 そこで学んだ4人は、それぞれの得意分野に生きるべく、卒業後の進路を選びます。 複雑な家...

少将滋幹の母 谷崎潤一郎 新潮社 2007年10月

少将滋幹の母 谷崎潤一郎 新潮社 2007年10月

この作家の作品はどれをとっても見事という他はないです。とにかく読ませます。というより、読んでしまう。引き込まれてしまうのです。その筆力の高さ、確かさには舌をまきます。 代表的なものはほとんど読みました。『細雪』はやはり上の上です。『吉野葛』『芦刈』もいい。それぞれ何度も読んでいます。『痴人の愛』『春琴抄』どれをとっても谷崎の美意識が横溢しています。耽美といわれる所以です。 なにも言えなくなります。...

暴露 グレーン・グリーンウォルド 新潮社 2014年5月

暴露 グレーン・グリーンウォルド 新潮社 2014年5月

 第1章と2章は大変に読み応えがあります。完全に一冊のスリリングな小説です。 著者は市民権擁護の立場にたつ弁護士です。エドワード・スノーデンについてはかなりの人が多くのことを知っているに違いありません。しかしマスコミの報道の仕方と、本書とを読み比べると、その差に驚くと思われます。 パソコンおたくのはねっかえりともとれる書き方をされたスノーデン青年と、この本の中に出てくる彼とは明らかに別人です。 最...

助けてと言えない NHK取材班 文藝春秋 2013年6月

助けてと言えない NHK取材班 文藝春秋 2013年6月

孤独死した39才の男性が最後に残した一枚の紙に書いた言葉。それは「助けて」というものでした。衝撃的です。 全編がNHKで放送したクローズアップ現代の後追い取材によって構成されています。30代のホームレスという表現にあまり馴染みがありませんでした。しかし外からは一見してわからないように、ひっそりとたくさん存在しているのです。北九州市で亡くなった男性は餓死だったそうです。 そんなことが現代でもあるのか...

獄中記 佐藤優 岩波書店 2006年12月

獄中記 佐藤優 岩波書店 2006年12月

ここ数週間の間に佐藤優の本を5冊読みました。いずれも初期のものばかりです。『国家の罠』『自壊する帝国』『同志社大学神学部』『先生と私』それとこの『獄中記』です。 著者は現在評論家としてマスコミにもてはやされています。彼の書いた本の広告や対談、コメントが載らない日はありません。 かつて外務省につとめ、やがてそこを追われるようにして拘置された過去など、全て払拭されたかのようです。 しかしこの人の出自に...

難民高校生 仁藤夢乃 英治出版 2013年3月

難民高校生 仁藤夢乃 英治出版 2013年3月

 著者のことはテレビの番組で知りました。渋谷の街を歩いては、目にとまる高校生と話をし、彼女たちの悩みを親身になって聞くという活動をしている人です。 彼女自身もかつては渋谷ギャルでした。高校を2年で中退し、毎日渋谷の街をうろついて、友達の家を泊まり歩く暮らしをしていました。両親との関係もうまくいかず、誰も信じられない状態がずっと続きます。 当然のことながら、似たような友人が次々とあらわれ、彼女たちは...

豊饒の海全4巻 三島由紀夫 新潮社 1970年10月

豊饒の海全4巻 三島由紀夫 新潮社 1970年10月

三島由紀夫が自決する前に書いた最後の小説です。『豊饒の海』は4部作の総称で、細かく分けると『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』となります。三島は最後の『天人五衰』を書き新潮社に届けてすぐ、市ヶ谷の自衛隊を訪れ割腹自殺をして、その生涯を終えました。 最初の『春の雪』が上梓された時、畢生の大作という大仰な広告が書店を飾っていたことを思い出します。まだこれからいくらでも小説を発表する作家だと思ってい...