七つの会議 池井戸潤 日本経済新聞出版社 2012年11月

数年前からこの作家の本を読み始めました。経済と人間との絡み合いに興味を持ったからです。半沢直樹シリーズの評判は聞いていました。 後に作品を読み、興味を持ったことも事実です。銀行という組織の持つ非人間性がこれでもかと描かれていました。しかし会社という組織には多かれ少なかれ、似たような側面があります。 それが金融機関という一番冷徹な場面で表現されたに違いありません。 その後は人間ドラマの方にむし...

お能 老木の花 白洲正子 講談社 2007年4月

筆者が二代目梅若実について能を習い始めたのは4歳の時でした。それからずっと能に親しみ、多くの舞台に出ています。その当人が書いたエッセイだけに、リアリティに満ちています。 実際に舞った人だけにしか書けない内容です。お能の見方や、幽玄、装束、面などについて独自の視点から、彼女の見識を披露しています。 難しい言葉は一切ありません。それだけでもすごいことです。読んでいても思わずうならされるところばかりです...

あこがれ 川上未映子 新潮社 2015年10月

小説を集中的に読みたくなりました。殊に今まであまり読んでいなかった女性作家の作品を選んでいます。 この人のものは初めてでした。 読後感が爽やかです。小学校4年から6年生にかけての男女ふたりの心理描写が中心です。 どちらもそれぞれの父親と母親を早くに失い、その分だけ、大人の世界に対する視点も確かなものになっています。 第一章の「ミス・アイスサンドイッチ」と第二章の「苺ジャムから苺をひけば」の間には発...

庭の桜、隣の犬 角田光代 講談社 2007年9月

最近、あまりこの欄に本のことを書かなくなりました。読んでいない訳ではないのです。つい日記の方ですませてしまう傾向が強くなりました。反省しています。 久しぶりに角田光代の小説を読みました。 群像に1年間連載したもののようです。 内容はまさに家族と夫婦。 主人公はテーゼがないと呟きながら、自分の芯がないことに気づきつつ、暮らしています。 どうにもならないシチュエーションが延々と続きます。舞台は多摩プラ...

仮面の告白 三島由紀夫 新潮社 2003年6月

何度目でしょうか。その時々に読んできました。 先日、新しく勤める学校の図書館に初めて立ち寄りました。ふと手にとってみる気になったのです。 この作家のものは、どれも特異です。今のような時代にも読者はいるのでしょうか。華美な装飾がこれでもかとついていて、その金モールを全て取り外し、素顔まで覗きにいくのはなかなか至難です。 しかしそこにみえる自我の量は圧倒的です。それ故に興味深いということになるのでしょ...

つまをめとらば 青山文平 文藝春秋 2016年1月

今期の直木賞受賞作です。昨今あまり時代小説を読まなくなりました。というより、小説そのものから遠ざかっている気がします。自分の周囲の出来事の方が、よほど小説よりも小説的だからかもしれません。 それと同時に落語の題材を探したいという目もあります。「文七元結」のようなテーマが、そうあちこちに落ちているとも思えませんけれど、あればあったで、実に愉快です。 さてこの短編集にはさまざまな味わいがあります。キー...

ロゴスの市 乙川優三郎  徳間書店 2015年12月

主人公は同時通訳の女性と小説の翻訳家の二人です。 それに絡むのが、後に修道女になる人と大手出版社に勤める大学の同級生4人です。 さらに海外の小説を得意とする出版社の中堅社員。 それぞれの生き様を通して、言葉と真剣に対峙する主人公二人の愛の行方が描かれます。 大学は明らかにICUをイメージしています。 そこで学んだ4人は、それぞれの得意分野に生きるべく、卒業後の進路を選びます。 複雑な家...

少将滋幹の母 谷崎潤一郎 新潮社 2007年10月

この作家の作品はどれをとっても見事という他はないです。とにかく読ませます。というより、読んでしまう。引き込まれてしまうのです。その筆力の高さ、確かさには舌をまきます。 代表的なものはほとんど読みました。『細雪』はやはり上の上です。『吉野葛』『芦刈』もいい。それぞれ何度も読んでいます。『痴人の愛』『春琴抄』どれをとっても谷崎の美意識が横溢しています。耽美といわれる所以です。 なにも言えなくなります。...

暴露 グレーン・グリーンウォルド 新潮社 2014年5月

 第1章と2章は大変に読み応えがあります。完全に一冊のスリリングな小説です。 著者は市民権擁護の立場にたつ弁護士です。エドワード・スノーデンについてはかなりの人が多くのことを知っているに違いありません。しかしマスコミの報道の仕方と、本書とを読み比べると、その差に驚くと思われます。 パソコンおたくのはねっかえりともとれる書き方をされたスノーデン青年と、この本の中に出てくる彼とは明らかに別人です。 最...

助けてと言えない NHK取材班 文藝春秋 2013年6月

孤独死した39才の男性が最後に残した一枚の紙に書いた言葉。それは「助けて」というものでした。衝撃的です。 全編がNHKで放送したクローズアップ現代の後追い取材によって構成されています。30代のホームレスという表現にあまり馴染みがありませんでした。しかし外からは一見してわからないように、ひっそりとたくさん存在しているのです。北九州市で亡くなった男性は餓死だったそうです。 そんなことが現代でもあるのか...