顔 横山秀夫 徳間書店 2002年10月

著者の小説はこれで3冊目です。『動機』に続いて『半落ち』。この『半落ち』という作品は、その設定に少し無理があるのではないかと感じました。脊髄液の移植というテーマはかなり医学的にも、問題があったようです。 今回は婦人警察官が主人公です。犯人の似顔絵を描くという鑑識課の仕事に従事しています。 しかし顔が全く似ていないという理由で、後につかまった犯人の写真から似顔絵をもう一度描かされるという屈辱的な処遇...

すべては一杯のコーヒーから 松田公太 (新潮社) 2002年5月

筆者はコーヒー店「タリーズ」の取締役社長です。父親の仕事の関係で、セネガル、アメリカ生活の後、日本に戻りました。 その後、三和銀行に就職したものの、どうしても事業を展開したく、数年で退職します。 やはり日本以外の土地で長く生活していたことが、彼の精神風土を作り上げたのでしょう。 シアトルで飲んだコーヒーの味が忘れられず、一日に50店も訪ね歩きます。その時に出会った本物の味がタリーズでした。 銀行員...

坂本一亀とその時代 田邊園子 作品社 2003年6月

副題に「伝説の編集者」とあります。まさに坂本一亀は従来にないタイプの編集者でした。彼が河出書房にいる間、発掘した作家の名前をあげれば、そのことがよくわかるはずです。 三島由紀夫『仮面の告白』、小田実『何でも見てやろう』、高橋和巳『悲の器』、黒井千次『時間』、埴谷雄高『闇の中の黒い馬』、井上光晴『地の群れ』、辻邦生『夏の砦』、野間宏『青年の環』、丸谷才一『笹まくら』、水上勉『飢餓海峡』、山崎正和『...

テレビの黄金時代 小林信彦 文藝春秋 2002年11月

月刊「文藝春秋」に連載していた時から、楽しみに読んでいました。今度まとまった形で読みなおし、今さらのように草創期のテレビはすごかったという印象を強くしたものです。 一言でいえば、この時期のテレビにはたくさんの強者がいました。日本テレビの井原高忠は今や伝説の人です。彼がいなかったら、ほとんどのショー番組はできなかったことでしょう。 ナベプロ、マナセプロとの確執などが後の「スター誕生」に発展し、ホリプ...

定年、気がつけば二人旅 吉武輝子 ミネルヴァ書房 2000年9月

評論家、吉武輝子がある時、豪華客船上で行われた講演会に講師として招かれます。タイトルは「定年後の夫の生き方、妻の生き方」というものでした。 そこに集まったのは定年を間近にした360人の夫婦。これはその時出会った多くの人々の軌跡を描いたルポともいえるものです。 定年を間近にした夫婦の生き様は、まさに現代日本の象徴でもありました。 背景には吉武さん自身の夫との生活が追想されます。子供を産むために会社を...

光の教会 安藤忠雄の現場 平松剛 建築資料研究社 2000年12月

建築家、安藤忠雄が大阪茨木市に建てた「光の教会」はあまりにも有名です。中央の壁が十字に切られ、そこから外光が漏れて入ってくるのです。 この建築プランを作り出し、それを実際に施工するまでの様子をドキュメントにしたのが、この本です。 本当に低額予算で、どこまで教会側の意図に忠実な建築がたてられるのか。時はまさにバブル絶頂の時でした。 どこの建築会社も尻込みする中で、半ば物作りに魅入られたような会社が、...

中学生・高校生の生活と意識調査 NHK NHK出版 2003年6月

サブタイトルに「楽しい今と不確かな未来」とあります。これはNHKが5年ごとに行っているアンケートを分析し、解説した本です。 ゆとりの時間が導入され、生徒の学習時間は確実に減少しています。しかし多くの生徒達は学校が楽しいといいます。 先生の体罰も激減し、親子関係もそれほどに厳しいものではなくなっています。 生徒達は未来のために今を犠牲にするという考えをほとんど持っていません。 それよりもむしろ今を楽...

親父の出番 鳥越俊太郎 (集英社) 2003年5月

親子の関係が今ほど難しい時代はありません。かつては家の周囲にコミュニティがあり、誰かが子供達をみていました。 また社会の価値観も明確にあり、貧しいながらも道徳は厳然として存在していたのです。 しかし現在、親たちは子供の教育にそれほど強い自信をもっているようには見えません。近年、起こる少年犯罪はとうとう、少年法の改正にまで及んでしまいました。 さてこの本では、父親が子育てにどう関わっていくべきなのか...

フリーターという生き方 小杉礼子 勁草書房 2003年3月

フリーターという言葉は1980年代後半、アルバイト情報誌「フロムエー」によって作られ、広められた言葉です。 今では誰もが、ごく普通に使っています。しかしその内実を調査した本はそれほど多くありませんでした。筆者は日本労働研究機構の研究員です。 ここではフリーターが生み出される背景とその問題点を書き込んでいます。 ひとことでいえば、フリーターは低技能度の仕事が多く、キャリアアップに繋がらないのです。低...

学校を救済せよ 尾木直樹 宮台真司 学陽書房 1998年5月

今から5年も前に書かれた本であるのに、少しも古さを感じさせません。というより、問題は今日あらゆる場面で、もっと先鋭な形をとっているような気がします。 いじめ、不登校、内申書、制服、校内暴力、親、教師の問題などを、あらゆる角度からとりあげています。 現在学校は、外側からの注視と内側からのそれに追随した管理に浸され、全てを数値化する方向へ向かっています。 しかしそれがいかに教育になじまないものであるの...