女のいない男たち 村上春樹 文藝春秋 2014年5月

女のいない男たち 村上春樹 文藝春秋 2014年5月

 前作を読んだのが、ちょうど1年前のことでした。あの時はほとんど否定的な感想を書いた記憶があります。もう村上ワールドに飽きたという正直な気分を述べました。 あれから1年が過ぎ、書き手も読み手も年をとりました。村上春樹はぼくより1歳年上なのです。同じような風景をかなり見て生きてきたんだなと時々強く思うこともあります。 彼の味わいは短編にあると今でも信じています。初期の頃からずっと読み続けていますが、...

今を生きるための哲学的思考 黒崎政男 日本実業出版社 2012年10月

今を生きるための哲学的思考 黒崎政男 日本実業出版社 2012年10月

この著者の文章は授業で何度か扱ったことがあります。インターネット時代に入って著作というものに対する基本的な考え方が根本的に変化したという内容のものでした。本書でも同じスタンスをとっています。今までは文章を書く人と読む人が厳然と分けられていました。その垣根を元から奪ったのがネット時代というわけです。 そこでは誰もが発信者になれ、知識を記憶するということにあまり重点がおかれなくなりました。知識人、文化...

安部公房とわたし 山口果林 講談社 2013年8月

安部公房とわたし 山口果林 講談社 2013年8月

 安部公房が亡くなってから20年の月日が過ぎました。 『砂の女』がことに好きでした。不条理な小説の内容には不思議な魅力がありました。映画や芝居も何本か見ました。どれもが形容のできない斬新なもので、そのたびにただ唸ったものです。 特によく覚えているのが紀伊國屋ホールで見た「ウェー」でしょうか。小説『箱男』などとあいまって今も強く記憶に残っています。 山口果林はNHKの朝ドラ「繭子ひとり」で一躍有名に...

わたしの上海バンスキング 明緒 愛育社 2013年12月

わたしの上海バンスキング 明緒 愛育社 2013年12月

 昨年の12月に出版された本です。 上海バンスキングという芝居を一度でも見たことのある人は、是非これを手にとってほしい。それくらい魅力に富んだ本です。前半は舞台写真と稽古場での風景を撮ったものばかりです。 串田和美が始めた自由劇場の入り口の写真が見事です。80人も入ればもう一杯だという六本木の地下劇場が彼らの世界そのものでした。 そこへ飛び込んできたのが笹野高史であり、吉田日出子だったのです。 小...

呵々大将 竹邑類 新潮社 2013年11月

呵々大将 竹邑類 新潮社 2013年11月

副題に我が友三島由紀夫とあります。 著者は演出家で振付師です。 愛称はピーターという名前でした。 高知の田舎から出てきた青年が、60年代、新宿のジャズバーで三島由紀夫と知り合うところから、この本は始まります。 時代はまさに沸騰していました。 当時人気絶頂のロカビリー歌手、藤木孝などが出入りする店内は、夜になると急になまめかしく蠢きます。 酒と薬が全ての世界でした。 三島はぎらぎらした目で、店内を物...

フランシス子へ 吉本隆明 講談社 2013年3月

フランシス子へ 吉本隆明 講談社 2013年3月

フランシス子というのは、筆者が飼っていた猫の名前です。16年と4ヶ月は長命だったのでしょうか。 平凡といえば、平凡きわまりない猫だったと彼は書いています。しかし今まで出会ったことがないくらい、しっくりといっていた猫なのだそうです。 つまり難しくいえば関係性ということなのかもしれません。おとなしいというより、鈍感で黙りこくっていて、冴えたところが微塵もない、本当にぼんやりとした猫だったそうです。相性...

工学部ヒラノ教授と七人の天才 今野浩 青土社 2013年3月

工学部ヒラノ教授と七人の天才 今野浩 青土社 2013年3月

だいたい教師というのは変人が多いものです。またそうでなくてはやっていけないという側面もあります。 いや、今まではそうだったというべきでしょうか。これからは案外普通の人が普通にやっていく仕事になっていくのかもしれません。 だいたい教師になろうという人は、チームワークで行動するということがあまり得意ではありません。どちらかといえば、一人でのんびりマイペースにやっていくのが好きという人が多いのではないで...

世界中で迷子になって 角田光代 小学館 2013年6月

世界中で迷子になって 角田光代 小学館 2013年6月

 この人には独特の軽みがあります。それが時に意外な表情をみせるのです。文章にも飄々とした味わいが感じられます。 だから時々、読みたくなるのかもしれません。 ぼくはそれほどにいい読者ではありませんが、今までにも何冊か読んできました。やはり『八日目の蝉』が一番記憶に強く残っています。 旅行記は以前、この欄でも紹介したことがあります。『いつも旅のなか』という作品です。 アジアへの貧乏旅行の記述はなかなか...

森敦との対話 森富子 集英社 2004年8月

森敦との対話 森富子 集英社 2004年8月

文芸雑誌「すばる」2004年2月号に発表された時、すぐに読みました。大変に強い印象を持ったのを今でもよく覚えています。 森敦は好きな作家の一人です。17才で書いた処女作と言われている『酩酊船』を含め、かなりの数を読んでいます。 特に青春時代の彷徨をまとめた作品群と湯殿山中の注連寺で行った講演集などにはひときわ愛着を感じます。 60才での芥川賞受賞が話題になったのは、昭和49年のことです。『月山』と...

色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年 村上春樹 文藝春秋 2013年4月

色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年 村上春樹 文藝春秋 2013年4月

 久しぶりに村上春樹の小説を読みました。 そこに出てくる記号はいつものことですが、彼の得意とする世界そのものです。 学生時代から読んできた実感からすれば、少し疲れを覚えたというのが正直なところです。 リストのピアノ曲「ル・マル・デュ・ペイ」、コーヒーとオムレツとトースト、日曜の朝のプール、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲、レクサスのセダン、チノパンツ、フィンランド、ハメーンリンナのサマーハウス、...