獄中記 佐藤優 岩波書店 2006年12月

ここ数週間の間に佐藤優の本を5冊読みました。いずれも初期のものばかりです。『国家の罠』『自壊する帝国』『同志社大学神学部』『先生と私』それとこの『獄中記』です。 著者は現在評論家としてマスコミにもてはやされています。彼の書いた本の広告や対談、コメントが載らない日はありません。 かつて外務省につとめ、やがてそこを追われるようにして拘置された過去など、全て払拭されたかのようです。 しかしこの人の出自に...

難民高校生 仁藤夢乃 英治出版 2013年3月

 著者のことはテレビの番組で知りました。渋谷の街を歩いては、目にとまる高校生と話をし、彼女たちの悩みを親身になって聞くという活動をしている人です。 彼女自身もかつては渋谷ギャルでした。高校を2年で中退し、毎日渋谷の街をうろついて、友達の家を泊まり歩く暮らしをしていました。両親との関係もうまくいかず、誰も信じられない状態がずっと続きます。 当然のことながら、似たような友人が次々とあらわれ、彼女たちは...

豊饒の海全4巻 三島由紀夫 新潮社 1970年10月

三島由紀夫が自決する前に書いた最後の小説です。『豊饒の海』は4部作の総称で、細かく分けると『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』となります。三島は最後の『天人五衰』を書き新潮社に届けてすぐ、市ヶ谷の自衛隊を訪れ割腹自殺をして、その生涯を終えました。 最初の『春の雪』が上梓された時、畢生の大作という大仰な広告が書店を飾っていたことを思い出します。まだこれからいくらでも小説を発表する作家だと思ってい...

女のいない男たち 村上春樹 文藝春秋 2014年5月

 前作を読んだのが、ちょうど1年前のことでした。あの時はほとんど否定的な感想を書いた記憶があります。もう村上ワールドに飽きたという正直な気分を述べました。 あれから1年が過ぎ、書き手も読み手も年をとりました。村上春樹はぼくより1歳年上なのです。同じような風景をかなり見て生きてきたんだなと時々強く思うこともあります。 彼の味わいは短編にあると今でも信じています。初期の頃からずっと読み続けていますが、...

今を生きるための哲学的思考 黒崎政男 日本実業出版社 2012年10月

この著者の文章は授業で何度か扱ったことがあります。インターネット時代に入って著作というものに対する基本的な考え方が根本的に変化したという内容のものでした。本書でも同じスタンスをとっています。今までは文章を書く人と読む人が厳然と分けられていました。その垣根を元から奪ったのがネット時代というわけです。 そこでは誰もが発信者になれ、知識を記憶するということにあまり重点がおかれなくなりました。知識人、文化...

安部公房とわたし 山口果林 講談社 2013年8月

 安部公房が亡くなってから20年の月日が過ぎました。 『砂の女』がことに好きでした。不条理な小説の内容には不思議な魅力がありました。映画や芝居も何本か見ました。どれもが形容のできない斬新なもので、そのたびにただ唸ったものです。 特によく覚えているのが紀伊國屋ホールで見た「ウェー」でしょうか。小説『箱男』などとあいまって今も強く記憶に残っています。 山口果林はNHKの朝ドラ「繭子ひとり」で一躍有名に...

わたしの上海バンスキング 明緒 愛育社 2013年12月

 昨年の12月に出版された本です。 上海バンスキングという芝居を一度でも見たことのある人は、是非これを手にとってほしい。それくらい魅力に富んだ本です。前半は舞台写真と稽古場での風景を撮ったものばかりです。 串田和美が始めた自由劇場の入り口の写真が見事です。80人も入ればもう一杯だという六本木の地下劇場が彼らの世界そのものでした。 そこへ飛び込んできたのが笹野高史であり、吉田日出子だったのです。 小...

呵々大将 竹邑類 新潮社 2013年11月

副題に我が友三島由紀夫とあります。 著者は演出家で振付師です。 愛称はピーターという名前でした。 高知の田舎から出てきた青年が、60年代、新宿のジャズバーで三島由紀夫と知り合うところから、この本は始まります。 時代はまさに沸騰していました。 当時人気絶頂のロカビリー歌手、藤木孝などが出入りする店内は、夜になると急になまめかしく蠢きます。 酒と薬が全ての世界でした。 三島はぎらぎらした目で、店内を物...

フランシス子へ 吉本隆明 講談社 2013年3月

フランシス子というのは、筆者が飼っていた猫の名前です。16年と4ヶ月は長命だったのでしょうか。 平凡といえば、平凡きわまりない猫だったと彼は書いています。しかし今まで出会ったことがないくらい、しっくりといっていた猫なのだそうです。 つまり難しくいえば関係性ということなのかもしれません。おとなしいというより、鈍感で黙りこくっていて、冴えたところが微塵もない、本当にぼんやりとした猫だったそうです。相性...

工学部ヒラノ教授と七人の天才 今野浩 青土社 2013年3月

だいたい教師というのは変人が多いものです。またそうでなくてはやっていけないという側面もあります。 いや、今まではそうだったというべきでしょうか。これからは案外普通の人が普通にやっていく仕事になっていくのかもしれません。 だいたい教師になろうという人は、チームワークで行動するということがあまり得意ではありません。どちらかといえば、一人でのんびりマイペースにやっていくのが好きという人が多いのではないで...