工学部ヒラノ教授と七人の天才 今野浩 青土社 2013年3月

だいたい教師というのは変人が多いものです。またそうでなくてはやっていけないという側面もあります。 いや、今まではそうだったというべきでしょうか。これからは案外普通の人が普通にやっていく仕事になっていくのかもしれません。 だいたい教師になろうという人は、チームワークで行動するということがあまり得意ではありません。どちらかといえば、一人でのんびりマイペースにやっていくのが好きという人が多いのではないで...

世界中で迷子になって 角田光代 小学館 2013年6月

 この人には独特の軽みがあります。それが時に意外な表情をみせるのです。文章にも飄々とした味わいが感じられます。 だから時々、読みたくなるのかもしれません。 ぼくはそれほどにいい読者ではありませんが、今までにも何冊か読んできました。やはり『八日目の蝉』が一番記憶に強く残っています。 旅行記は以前、この欄でも紹介したことがあります。『いつも旅のなか』という作品です。 アジアへの貧乏旅行の記述はなかなか...

森敦との対話 森富子 集英社 2004年8月

文芸雑誌「すばる」2004年2月号に発表された時、すぐに読みました。大変に強い印象を持ったのを今でもよく覚えています。 森敦は好きな作家の一人です。17才で書いた処女作と言われている『酩酊船』を含め、かなりの数を読んでいます。 特に青春時代の彷徨をまとめた作品群と湯殿山中の注連寺で行った講演集などにはひときわ愛着を感じます。 60才での芥川賞受賞が話題になったのは、昭和49年のことです。『月山』と...

色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年 村上春樹 文藝春秋 2013年4月

 久しぶりに村上春樹の小説を読みました。 そこに出てくる記号はいつものことですが、彼の得意とする世界そのものです。 学生時代から読んできた実感からすれば、少し疲れを覚えたというのが正直なところです。 リストのピアノ曲「ル・マル・デュ・ペイ」、コーヒーとオムレツとトースト、日曜の朝のプール、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲、レクサスのセダン、チノパンツ、フィンランド、ハメーンリンナのサマーハウス、...

演劇VS映画 想田和弘 岩波書店 2012年10月

 平田オリザ率いる劇団青年団のドキュメンタリーを撮った想田監督の本です。サブタイトルに「ドキュメンタリーは虚構を映せるか」とあります。平田オリザが現代口語演劇を標榜して、かなりの年月が経ちました。今ではその分野での第一人者といっても過言ではないでしょう。緻密に計算された台詞はあたかも日常の会話そのもののように聞こえますが、そこには多くの方法論が含まれています。 役者は何を考えていてもいい。ただそれ...

談志歳時記 吉川潮 新潮社 2012年11月

 立川談志が亡くなって一年。はやいものです。 このところ、この落語家に関する本が次々と出版され、書店を賑わせています。 つい最近では立川談四楼の『談志が死んだ』という傑作な回文をそのままタイトルにした本が上梓されました。 個人的にはこの噺家にはさまざまな思いを持っています。しかし彼の周辺にいた人にとっては、どうしても書かずにはいられない対象なのでしょう。そのことが痛いほどよくわかります。もはや立川...

拉致と決断 蓮池薫 新潮社 2012年11月

 北朝鮮に拉致された蓮池さんの手記です。24年間の生活が描かれています。子供を北朝鮮において日本に一時帰国した時のことから、詳細に綴られています。一言でいえば、せつないしやるせない気分で一杯になります。子供のいる場所にもう一度戻ろうとする二人をなんとかこのまま日本にとどめようとする家族。その葛藤とせめぎあいが生々しく描写されています。 なぜここまで過酷なのか。こういう犯罪があるということ、そのもの...

表裏井上ひさし協奏曲 西館好子 牧野出版 2011年9月

 作家井上ひさしとその妻、好子さんとのあまりにも壮絶な日常を描いた作品です。 井上ひさしとの出会いから、彼が売れっ子作家になるまで。そして劇団の運営に関わり、やがて離婚。最後は作家の死までが実に当事者でなければ書けない筆致で、綴られています。 一言で言えば火宅といえるのではないでしょうか。 人はその出自に負うというのが今の感想です。 家族の団欒というものを知らない井上が、下町育ちの全く自分とは毛色...

日本を降りる若者たち 下川裕治 講談社 2007年11月

 日本は暮らしにくい国になってしまったのでしょうか。この本を読んでいると、タイの首都バンコック、カオサンロードと呼ばれる安宿街に寝泊まりする彼らの生態がよく見えてきます。 日本で2ヶ月くらい働き、残りの10ヶ月をタイで遊んで暮らす。そんな彼らの様子です。 なぜそうなったのか。理由はさまざまでしょう。 最初はちょっとした旅のつもりでふらっと立ち寄ったこの都市が、思いの外居心地のよい場所であったという...

五代目小さん芸語録 柳家小里ん 中央公論新社 2012年5月

五代目小さんといえば、誰でもが知っている顔の丸い噺家です。落語家ではじめて人間国宝になったというので有名になりました。 今日の柳家の隆盛を作り出したのはまさにこの噺家の存在があったからです。剣道を愛し、たくさんの弟子を育てました。その中に次世代を継ぐ噺家が登場したというわけです。 現在の落語協会会長、柳家小三治も弟子の一人です。 この本は、内弟子修業をした柳家小里んが師匠の芸について語ったものの総...