演劇VS映画 想田和弘 岩波書店 2012年10月

演劇VS映画 想田和弘 岩波書店 2012年10月

 平田オリザ率いる劇団青年団のドキュメンタリーを撮った想田監督の本です。サブタイトルに「ドキュメンタリーは虚構を映せるか」とあります。平田オリザが現代口語演劇を標榜して、かなりの年月が経ちました。今ではその分野での第一人者といっても過言ではないでしょう。緻密に計算された台詞はあたかも日常の会話そのもののように聞こえますが、そこには多くの方法論が含まれています。 役者は何を考えていてもいい。ただそれ...

談志歳時記 吉川潮 新潮社 2012年11月

談志歳時記 吉川潮 新潮社 2012年11月

 立川談志が亡くなって一年。はやいものです。 このところ、この落語家に関する本が次々と出版され、書店を賑わせています。 つい最近では立川談四楼の『談志が死んだ』という傑作な回文をそのままタイトルにした本が上梓されました。 個人的にはこの噺家にはさまざまな思いを持っています。しかし彼の周辺にいた人にとっては、どうしても書かずにはいられない対象なのでしょう。そのことが痛いほどよくわかります。もはや立川...

拉致と決断 蓮池薫 新潮社 2012年11月

拉致と決断 蓮池薫 新潮社 2012年11月

 北朝鮮に拉致された蓮池さんの手記です。24年間の生活が描かれています。子供を北朝鮮において日本に一時帰国した時のことから、詳細に綴られています。一言でいえば、せつないしやるせない気分で一杯になります。子供のいる場所にもう一度戻ろうとする二人をなんとかこのまま日本にとどめようとする家族。その葛藤とせめぎあいが生々しく描写されています。 なぜここまで過酷なのか。こういう犯罪があるということ、そのもの...

表裏井上ひさし協奏曲 西館好子 牧野出版 2011年9月

表裏井上ひさし協奏曲 西館好子 牧野出版 2011年9月

 作家井上ひさしとその妻、好子さんとのあまりにも壮絶な日常を描いた作品です。 井上ひさしとの出会いから、彼が売れっ子作家になるまで。そして劇団の運営に関わり、やがて離婚。最後は作家の死までが実に当事者でなければ書けない筆致で、綴られています。 一言で言えば火宅といえるのではないでしょうか。 人はその出自に負うというのが今の感想です。 家族の団欒というものを知らない井上が、下町育ちの全く自分とは毛色...

日本を降りる若者たち 下川裕治 講談社 2007年11月

日本を降りる若者たち 下川裕治 講談社 2007年11月

 日本は暮らしにくい国になってしまったのでしょうか。この本を読んでいると、タイの首都バンコック、カオサンロードと呼ばれる安宿街に寝泊まりする彼らの生態がよく見えてきます。 日本で2ヶ月くらい働き、残りの10ヶ月をタイで遊んで暮らす。そんな彼らの様子です。 なぜそうなったのか。理由はさまざまでしょう。 最初はちょっとした旅のつもりでふらっと立ち寄ったこの都市が、思いの外居心地のよい場所であったという...

五代目小さん芸語録 柳家小里ん 中央公論新社 2012年5月

五代目小さん芸語録 柳家小里ん 中央公論新社 2012年5月

五代目小さんといえば、誰でもが知っている顔の丸い噺家です。落語家ではじめて人間国宝になったというので有名になりました。 今日の柳家の隆盛を作り出したのはまさにこの噺家の存在があったからです。剣道を愛し、たくさんの弟子を育てました。その中に次世代を継ぐ噺家が登場したというわけです。 現在の落語協会会長、柳家小三治も弟子の一人です。 この本は、内弟子修業をした柳家小里んが師匠の芸について語ったものの総...

小説圓朝 正岡容 河出書房 2005年7月

小説圓朝 正岡容 河出書房 2005年7月

 この作品は1943年に出版されたものです。それを河出書房が復刻して文庫に入れてくれました。偶然のように手にした本です。ぼくは芸人伝が嫌いではありません。というか、結城昌治『志ん生一代』のような小説もふくめて、とても好きです。 なぜか非常に人間くさく、長所も短所もそこに人間そのものがいるような気がするからでしょう。 圓朝について、多くを語る必要はないと思います。江戸の最後から明治にかけてすぐれた噺...

愛人 マルグリット・デュラス 河出書房 1994年9月

愛人 マルグリット・デュラス 河出書房 1994年9月

 久しぶりに読み返しました。この作家の文体にひかれるからです。一言でいえば、散文詩に近いと形容できるかもしれません。独特の文体です。過去と現在が入り乱れ、けっして読みやすい小説ではありません。 彼女の文章にはいつも死の匂いが染みこんでいます。それが懐かしい響きをともなって遠くから聞こえてくるのです。 初期の傑作『モデラート・カンタービレ』では労働者階級の男との恋愛が描かれました。『愛人』では彼女の...

後世への最大遺物 内村鑑三 岩波書店 1984年2月

後世への最大遺物 内村鑑三 岩波書店 1984年2月

 この本は今までに何度か読み直しています。一番最初に知ったのは、森敦の講演の中ででした。そこで森は、人間は生きている間に何をし、死後に何を残せるのかということを、この本を例に出して語りました。 森の結論は文章を書けということだったと記憶しています。 その後、内村のこの著作に触れ、文章を書くということも確かに勧めてはいますが、それ以外にも別の視点があるということを知りました。 人間は何を後世に残せる...

花筏 たゆたう記 鳥越碧 講談社 2008年11月

花筏 たゆたう記 鳥越碧 講談社 2008年11月

谷崎潤一郎とその妻、松子について書かれた本です。小説の形をとり、かなり筆者の想像力に負っている部分の多い作品でもあります。しかしその背後にある二人の愛情の形はおそらくこのようなものだったのだろうと、十分納得させられるだけのものを感じます。 鳥越さんの作品は時代小説大賞の第一回作品、『雁金屋草紙』以来でした。読んだのは随分と以前です。尾形光琳の風貌が実に見事に描かれていた記憶があります。 なぜ今回こ...