先着順採用… 松浦元男 (講談社) 2003年8月

本のタイトルがあまりに長いので、正確に書きます。
『先着順採用、会議自由参加で世界一の小企業をつくった』というのが正式なものです。
著者は世界で最小、百万分の一グラムのプラスチック歯車をつくった樹研工業という小企業の社長です。この会社は100人足らずの規模ですが、普通の常識ではちょっと考えられない採用方針をとっています。
それは先着順で入社させるというものです。無試験の上、学歴、国籍、性別も問いません。また途中でやめても、いつでも復職できます。定年制もありません。本人が辞めたいと言わない限り、肩たたきもありません。
会議も全て自由参加です。さらに出勤簿も契約書もありません。全て自己申告制です。
誰でも初任給は年齢で決めます。一緒に仕事をしたいと考える人間なら、必ず伸びていくという人間に対する信頼から始めているからです。
そのかわり、一つの仕事は全てその人に任せます。ベルトコンベアシステムは一切使いません。コンピュータをフル稼働し、メールからインターネットまで、全員が完全に使いこなしています。
工業高校で数学が苦手だった人も、微積の難しい問題を難なくとけるレベルにまで、自然と到達してしまいます。それは仕事が要求するからです。知識のための知識ではありません。仕事に必要な知恵なのです。
かつて日本は電気製品の一大製造工場でした。しかし今や、日本で組み立てているものはほとんどありません。
家電のマーケットは完全に海外に引っ越した工場に任されているのです。
テレビもビデオもエアコンも名前は違えど、外国製品そのものなのです。そこで、もしこの状況が進んだらどうなるのかと考えた時、技術で勝負する以外、生き残る道はないと筆者は考えました。
そこから試行錯誤で、プラスチックの金型や、極小精密部品の世界へ入っていきました。現在は世界中の企業と取引をしています。
会社を持続させ、収益を上げるにはどうしたらいいのかというごく具体的な話には思わず、引き込まれてしまいました。
精神論はいっさいありません。全て具体的な話ばかりです。特に貸借対照表に対する考え方には驚きました。まさにここに示された通りだと思います。
またこういう形でしか、中小企業がこの国で生き残っていく道はないと実感しました。
偶然、手にした本ですが、世界を相手に夢を追いかけている人の生き様を見た思いがします。非常に爽やかな読後感の残る一冊でした。