圓朝

奥山景布子の『圓朝』を読み終わりました。
別名無舌居士、名人三遊亭圓朝です。
数年前まで、落語協会は圓朝祭りを8月に谷中の全生庵で催していました。
圓朝を格別贔屓にした明治の思想家、山岡鉄舟の葬られた寺でもあります。

圓朝はどうしても描きたい芸人とみえますね。
その人生はまさに波瀾万丈そのものです。
何冊か、関連の小説が出ています。
今までに読んだものでは、正岡容『小説圓朝』でしょうか。

正岡容(いるる)は数年前に亡くなった桂米朝、小沢昭一の師でした。
浮世絵師、一勇齋国芳の内弟子時代についての描写や、師匠二代目円生との関係が細かく描かれています。
もう一冊が小島政二郎の『圓朝』です。
こちらは息子、朝太郎の不行跡が後半の主題です。

名人を父に持った息子の苦悩とでもいえるのかもしれません。
息子の実母と妻との複雑な話は、今回読んだ奥山景布子の小説に詳しく載っています。
また圓朝と他の女性たちとの関わりについては、松井今朝子の小説『円朝の女』を読めば、だいたいわかります。

今回読了した小説には作品が生まれていくあたりの様子が、それぞれ解題のように描写され、それ故に少しスピード感が落ちる嫌いもありました。
しかしそこにある人間模様は、まさに芸人そのものに由来します。
一生、苦労の連続だったことがよくわかりました。

明治の治世の中を、なんとか生き抜こうとした一人の男の姿が垣間見えます。
政治体制がどうかわろうと、庶民の暮らしにそれほどの変化はありません。
牡丹灯籠』をはじめとして、『真景累ヶ淵』などたくさんの作品をつくり、速記録の出版までしたのは当時として画期的なことでした。

しかしその分だけ、風当たりも強かったのです。
その結果として、今日の名声があるといえるのかもしれません。